本の感想「火花 又吉直樹」

「バッドエンドはない、僕達はまだ途中だ。」

 

これは漫才師として駆け出しの主人公徳永と尊敬する売れない先輩漫才師神谷、2人の日常を描いたものである。徳永=又吉、神谷=おそらく実在する先輩芸人、とする自伝的小説である。


話は主人公徳永の漫才師コンビと神谷コンビが地方の花火大会の祭りのステージで漫才をする場面から始まる。

花火の大音量の前で誰にも聞いてもらえない漫才を披露した徳永コンビはその状況に打ちのめされるが、神谷はそんな状況でも自分のやりたい無茶苦茶な漫才を披露して主催者側から猛烈に怒られる。

その後の飲み会で二人は出会う。徳永は神谷の面白いと思う事ならなんでもするという漫才師としての純粋な姿に惹かれる。


花火というのは大きくて美しくて皆が好きなものだ。つまり世間の比喩である。世間を前にしても自分のやりたいように自分らしく好きにやる、声が届かなくても好きに生きるというのが神谷だ。

神谷の自分らしく生きる人間的魅力に徳永は惹かれる。しかし他の大多数の人や読者の多くの人が神谷を魅力的だとはおそらく思っていない。そこに出る杭は打たれる現代日本に対する示唆が含まれている。

 

破天荒であれということでは無く、純粋に自分らしく生きろという事だ。自分らしく生きるその過程で成功したり失敗したりするし世間から外れる事もある。そんな人に優しくできるのは自分らしく生きようとしてる人だけだ。皆がそうやって生きていればもっと違う社会になるのではないか。

 

何事にも通じる事を漫才師という生き方を通して学んだ。

自分の生き方や今の世の中を考えるきっかけになった本だった。